あさのキッチンに、
パリパリのクロワッサンと、ホットミルクがいました。
クロワッサンは、
じぶんの音がすきでした。
さわると、
ぱりっ。
かむと、
さくっ。
「ぼくは ちゃんと かたちが ある」
それが、ちょっとした じまんでした。
ホットミルクは、
じぶんのあたたかさが すきでした。
ふれると、
じんわり。
のむと、
ほっと。
「わたしは だれかを ゆるめる」
それが、ひそかな ほこりでした。
ふたりは、テーブルの上で ならびました。
でも、クロワッサンは すこし きんちょうしていました。
「ぼく、きみに ふれると
しめって しまうかも しれない」
ホットミルクは、やさしく こたえました。
「でも かわくのが こわくて、
だれにも ちかづかないのも
さびしいよ」
しばらく、ふたりは だまっていました。
あさの ひかりが すこし うごいて、
テーブルの えがおの かげも すこし のびました。
クロワッサンは、すこし だけ ちかづきました。
ホットミルクも、すこし だけ あたたかさを ゆるめました。
ふれすぎない。
はなれすぎない。
その ちょうど いい ところで、
ふたりは ならびました。
クロワッサンは、
まだ ぱりっと していました。
ホットミルクは、
まだ あたたかい ままでした。
でも、さっきより すこしだけ、
こころが やわらかく なっていました。
クロワッサンは 思いました。
「ぼくは こわれやすいけど、
だから だいじに されるんだ」
ホットミルクは 思いました。
「わたしは ひろがりやすいけど、
だから だれかを つつめるんだ」
あさは ちゃんと はじまりました。
なにかに なりきらなくても、
かわらなくても、
ただ そこに いるだけで いい あさでした。
――おしまい――



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