『桜フレーバー』 

小説

カルディの店先に、桜のお菓子だけを集めた小さな特設コーナーができていた。

淡いピンクの袋が並んでいて、どれも春の顔をしている。

桜フレーバーには、昔から弱い。

見つけると、理由を考える前に手が伸びてしまう。

餡子入りの桜キャンディ。

桜柿ピー。

それから、桜ドーナツ。

袋を持った重みが、少しだけうれしかった。

その足でパチンコ屋に入る。

椅子に座って、レバーをひねる。

盤面の音が、考え事を追い払う。

ポケットから桜飴をひとつ出して、口に入れる。

甘さの奥に、ほんのり塩気。

当たらない。

もうひとつ、飴をなめる。

それでも当たらない。

ため息をついて、立ち上がる。

今日は長くやる日じゃない。

外に出ると、空気が少し冷たい。

駅のホームで電車を待ちながら、

飴の残り香が口の中に残っている。

家に帰って、コーヒーを淹れる。

湯気が立ち上がるのを、ただ見ている。

「さてと」

声に出してから、桜ドーナツの袋を開けた。

ひと口かじると、

少しマドレーヌに似た、ぺたっとした生地。

もふもふしていて、指につく砂糖。

コーヒーを飲んで、もうひと口。

春はまだ先だけれど、

口の中には、もう来ていた。

ドーナツの袋をたたんで、

テーブルの端に置く。

桜フレーバーは、やっぱり私を満足させた。

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