☁️「パン屋さんのまえのベンチ」

町のはずれに、小さなパン屋さんがありました。

そのお店の前には、古い木のベンチがひとつ置いてありました。

ベンチは、毎朝パンの焼ける音を聴きにおいを嗅ぎながら、

通りを歩く人たちを静かに眺めていました。

ある冬の朝、雪がひらひら降るなか、

赤いマフラーをした子どもがベンチに座りました。

しばらくすると、犬の散歩をしているおばあさんも座りました。

次に、重たいかばんを持った配達のお兄さんもやってきました。

三人は、知らない同士でした。

でも誰も話さず、ただパンのにおいを吸い込みながら、

同じ空を見ていました。

パン屋さんのドアが開いて、

あたたかい湯気と一緒に、焼きたての丸パンが出てきました。

店主さんは、ベンチのそばに小さなかごを置いて言いました。

「今日は、ベンチに座ってる人は一つずつどうぞ。」

三人は顔を見合わせて、少し照れながら、

「ありがとう」と言ってパンを受け取りました。

子どもは半分に割って犬にあげました。

おばあさんは手袋を外して、ゆっくり食べました。

配達のお兄さんは、湯気に顔を近づけて深呼吸しました。

誰も特別な話はしませんでした。

でもベンチのまわりには、

ふわっとあたたかい空気が集まっていました。

雪は静かに降り続けて、

パンのにおいと一緒に、町を包みました。

その日、ベンチは思いました。

「世界は、こういう小さなあたたかさでできている。」

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