スーツケースは、来た時より少し軽い。
物は減っていないのに、
気持ちだけが置いていかれたみたいだった。
空港のカフェは、
世界中の「途中の人」でできている。
私は窓際でエスプレッソを飲んだ。
パリは、何も約束しない街だ。
成功もしない。
失敗もしない。
ただ、通り過ぎる人に、
「自分の人生に戻れ」と言うだけ。
スマホを見ると、
彼の名前はもう開かなくなっていた。
それでいい。
私は搭乗案内を聞きながら、
心の中でパリに手を振った。
ありがとう。
でも、住まなくていい。
思い出として持ち帰るくらいが、
ちょうどいい。
――おしまい――


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