『朝のマルシェ、八時半』

朝の空気は、夜の感情を薄めてくれる。

私はエコバッグを持って、

アパルトマン近くのマルシェに出かけた。

オレンジの山。

トマトの赤。

パン屋から流れる焼きたての匂い。

人たちは、昨日の私よりずっと元気そうで、

それが少しだけ悔しくて、でもありがたかった。

チーズ屋のマダムが言った。

「今日は顔がいいわね」

私は笑った。

「昨日はひどかったです」

マダムは肩をすくめた。

「人生はだいたい、そういう交代制よ」

私は卵といちごを買った。

特別な意味はない。

ただ、今の体が欲しがったもの。

歩きながら、ふと思う。

恋が終わっても、

お腹は空くし、

朝は来る。

それは残酷でもあり、

とても親切でもある。

帰り道、太陽が建物の間から顔を出した。

私はバッグの中身より、

自分の足取りが軽くなっていることに気づいた。

――おしまい――

コメント

タイトルとURLをコピーしました